業務中に事故が起きた場合、単なるケガや交通事故と異なり、労災保険が適用される可能性があります。会社にとっては、適切な初動対応や報告が求められると同時に、従業員へ適切な補償を行う責任が生じます。万一の事態に備えて、労災に認定される条件や会社の対応手順を知っておくことは、企業経営や労働管理において重要なポイントです。
労災保険の対象範囲はパートタイマーやアルバイトなどの雇用形態を問わず幅広く、未加入の事業所であっても従業員は保護を受けられます。その一方で、在宅勤務や休憩中など、事故が起きた状況によっては労災認定の可否が変わり、会社にも報告義務や調査義務が生じることがあります。誤った判断をすると、労務トラブルや行政処分につながるリスクがあるため注意が必要です。
この記事では、業務災害の基礎知識から労災と認定される要件、具体的な事故の事例、通勤災害の扱い、さらには会社の安全配慮義務や手続き上のポイントまでを詳しく解説します。労災を正しく理解し、万が一の際に迅速かつ適切な対応ができるよう、必要なポイントをしっかり押さえていきましょう。

本記事を執筆した弁護士

静岡城南法律事務所

岩﨑優太(いわさきゆうた)

静岡県弁護士会所属 登録番号:66675

目次

この記事の結論

Q1. 業務中の事故は、どこまでが労災になりますか?
A1. 会社の指揮命令のもとで仕事をしている最中(業務遂行性)に、仕事が原因(業務起因性)で起きたケガや病気は労災になります。パート・アルバイトも対象で、会社が労災保険に未加入でも補償を受けられます。
Q2. 労災保険の給付だけで十分ですか?
A2. 慰謝料は労災保険からは支払われません。会社に安全配慮義務違反などがある場合は、労災保険とは別に、会社へ慰謝料を含む損害賠償を請求できる可能性があります。

執筆:弁護士 岩﨑優太(静岡県弁護士会 登録番号66675/日本賠償科学会・日本医事法学会所属)

業務中の事故は何が労災に認定されるのか?

仕事中にケガをしたとき、それが労災(業務災害)と認定されるかどうかで、あなたが受け取れる補償は大きく変わります。ここでは、労災と認定されるための基本的な基準を、被災された方の目線で整理します。

労災保険における業務災害とは、仕事が原因で起こった負傷や病気のことを指します。具体的には、会社の指示を受けて作業している最中や、業務上必要な行動をしている最中に起きた事故が該当します。治療費(療養補償給付)は労災指定の医療機関なら窓口負担なしで治療を受けられ、仕事を休んだ場合は休業4日目以降、労災保険から休業補償給付を受けられます。最初の3日間(待期期間)は、業務災害であれば会社が平均賃金の6割を支払う義務があります(労働基準法76条)。

判断基準は「業務遂行性」と「業務起因性」

労災かどうかを判断する際の大きな基準となるのが、業務遂行性と業務起因性の有無です。業務遂行性とは、会社の指揮命令のもとで働いていた、もしくは業務上必要とされる行為を行っていた状態を指します。また業務起因性とは、その事故が仕事によって引き起こされたと考えられるかどうかを示す概念です。例えば荷物の運搬作業中にケガをした場合、明らかに業務遂行性と業務起因性が認められ、労災に該当しやすくなります。逆に、勤務時間中でも個人的な用事で仕事を離れていた場合は、労災認定に不利となる可能性があります。認定の分かれ目は事故当時の具体的な状況なので、いつ・どこで・何をしていて・どうケガをしたのかを、できるだけ具体的に記録しておくことが重要です。

パート・アルバイトでも労災保険の対象になる

労災保険は、雇用形態にかかわらず全ての労働者に適用されることが原則です。パートタイマーやアルバイトであっても、会社の指揮命令のもとで働いていれば労災保険の対象になります。「パートだから労災は使えない」という説明は誤りです。勤務時間の長さや雇用期間も関係ありません。

会社が労災保険に未加入でも補償は受けられる

労働者を雇用する会社には、原則として労災保険への加入義務があります。もし会社が加入手続きをしていなかったとしても、労働者が補償を受ける権利は失われません。未加入の場合のペナルティ(保険料の追徴等)を負うのは会社であって、被災した労働者は労災保険の給付を受けることができます。「うちは労災に入っていないから」と言われても、あきらめる必要はまったくありません。

【状況別】労災認定されるケース・されないケース

起きた事故の状況によって、労災と認定されるかどうかは変わります。判断に迷いやすい代表的なケースを見ていきましょう。

労災保険の適用は、会社の敷地内で作業中に起こった事故だけが対象となるわけではありません。昼休みや社内行事、在宅勤務など、「これは労災になるの?」と迷いやすい場面は多くあります。それぞれのケースで何がポイントになるのかを知っておくと、あきらめずに申請の判断ができます。

昼休み・休憩中に起こった事故

昼休みは基本的に業務から切り離された休憩時間とみなされるため、休憩中の私的な行動によるケガは労災と認められにくいのが原則です。しかし、職場の施設・設備が原因で起きた事故であれば話は別です。例えば、社内の食堂へ移動する途中、通路が濡れていたために転倒した場合など、職場環境に原因があるケースでは認定される余地があります。「休憩中だったから」だけで判断せず、事故の原因がどこにあったかに注目してください。

忘年会や社内行事での事故

忘年会や社内運動会など、会社の行事で発生した事故が労災認定されるかは、その行事がどの程度「業務の一環」とみなせるかが鍵です。単なる有志の親睦会であれば労災とみなされにくいですが、会社が費用を負担し、参加が事実上強制されているなど、業務の延長と認められれば労災認定される場合があります。行事の案内メールや費用負担の記録は、業務性を示す証拠になり得るので残しておきましょう。

在宅勤務(テレワーク)中の事故

テレワーク中に起きた事故も、業務中であれば労災の対象になります。自宅で仕事をしていても、所定の勤務時間内に業務に従事している最中に発生した事故であれば、業務起因性が認められやすい傾向にあります。一方で、家事や私用の合間に起きたケガは業務から切り離されるため、労災と判断されないケースが多いです。在宅勤務中の事故では業務との関連を示す記録(勤怠ログ・業務チャットの履歴など)が重要になります。

配達・営業など社外での事故

配達業務や営業の外回りなど、社外での移動が仕事の一部になっている場合、移動中の事故は労災に該当することが多いです。業務のルートから大きく外れて私的な用事を済ませていた場合は業務遂行性が問題になりますが、トイレ休憩や合理的な範囲の立ち寄りであれば、業務の延長とみなされるのが一般的です。

通勤中の事故(通勤災害)が認められる範囲

出勤・退勤の途中に起こった事故も、一定の要件を満たせば労災(通勤災害)として補償されます。

通勤災害とは、自宅と会社の間を合理的な経路・方法で移動している途中に被った事故のことです。私的な目的で通勤経路を大きく外れた場合(逸脱)や、通勤と関係ない行動をした場合(中断)は、その間とその後の移動は原則として通勤とは認められません。ただし、日用品の買い物や病院への立ち寄りなど、日常生活上必要な行為として認められているものについては、通常の経路に戻った後は再び「通勤」として扱われます。コンビニに数分立ち寄った程度で直ちに対象外になるわけではないので、通勤途中の事故もあきらめずに確認してください。当サイトの通勤災害の関連記事(寄り道・帰宅途中の事故)でも詳しく解説しています。

事故にあったら、被災者がまずやること

労災事故の直後は、次の順番で行動してください。後の労災認定や会社への損害賠償請求のしやすさが大きく変わります。

第一に、治療を最優先してください。労災指定医療機関を受診すれば、原則として窓口負担なしで治療を受けられます。このとき、「仕事中のケガです」と必ず伝えてください。健康保険は仕事中のケガには使えないため、誤って健康保険で受診してしまった場合は、後から労災への切り替え手続きが必要になります(切り替えは可能です)。

第二に、事故の状況を記録してください。現場の写真、目撃者の名前と連絡先、事故に至った作業の指示内容などは、時間が経つと失われていきます。とくに後遺障害が残るような大きなケガや、会社の安全管理に問題があったと感じるケースでは、初期の記録がその後の損害賠償請求の証拠として決定的に重要になります。

第三に、会社への報告です。会社には労働者死傷病報告の提出義務があり、通常は会社が労災の手続きに協力してくれます。ただし、次で述べるとおり、会社が協力しない場合でも申請はできます。

労災申請は自分でできる(会社が協力しない場合も)

労災の申請は、被災した労働者本人(またはご遺族)が、労働基準監督署に請求書を提出して行います。請求書には会社が事実関係を証明する欄がありますが、会社が記入を拒否しても申請はできます。その場合は、会社が証明を拒んでいる事情を労働基準監督署に伝えたうえで提出すれば、労基署が会社に確認をとって調査を進めてくれます。

「会社に迷惑がかかるから」「労災を使うなと言われた」という理由で申請をためらう方は少なくありませんが、労災保険の給付を受けることは労働者の正当な権利です。会社が労災の発生を隠すこと(労災かくし)はそれ自体が犯罪であり、あなたが遠慮する理由はありません。なお、労災保険の請求には期限があります(療養・休業の給付は2年、障害・遺族の給付は5年)。迷っているうちに期限が過ぎてしまわないよう、早めに動いてください。

労災保険だけでは足りないとき―会社への損害賠償と慰謝料

ここが最も重要なポイントです。労災保険の給付と、会社に対する損害賠償請求は「二本立て」の関係にあります。

労災保険からは、治療費(療養補償給付)、休業中の補償(休業補償給付=給付基礎日額の6割+特別支給金2割)、後遺障害が残った場合の障害補償給付、亡くなった場合の遺族補償給付などが支給されます。しかし、慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)は労災保険からは支払われません。また、休業補償も賃金全額ではないため、労災保険だけでは損害のすべてはカバーされないのです。

そこで、事故の原因について会社に安全配慮義務違反(安全な設備・作業環境・教育を整える義務を怠ったこと)などが認められる場合には、労災保険とは別に、会社に対して慰謝料を含む損害賠償を請求できる可能性があります。危険な設備を放置していた、安全教育をしていなかった、無理な作業を指示していた――そのような事情があるケースでは、労災保険の給付を受けたうえで、さらに会社への請求を検討する価値があります。

なお、会社への損害賠償額を計算する際、すでに受け取った労災保険給付の一部は差し引かれますが、特別支給金(休業特別支給金など)は差し引かれません。このあたりの計算は複雑なので、具体的な金額のイメージは労災慰謝料計算機で確認できます。

弁護士に相談すべきタイミング

すべての労災で弁護士が必要になるわけではありません。軽いケガで治療も補償も問題なく進んでいるなら、ご自身の手続きだけで完結することも多いです。一方、次のような場面では、早めに弁護士に相談する価値があります。

①後遺障害が残りそうなとき(障害等級の申請前)。等級が1つ違うだけで補償額は大きく変わります。②会社への損害賠償を考えているとき、または会社から示談の提案があったとき。提示額が適正かどうかは、裁判基準を知らないと判断できません。③会社が労災申請に協力してくれないとき。④ご家族が亡くなられたとき。遺族補償と会社への損害賠償の両方に関わる、最も専門性が求められる場面です。

まとめ:業務中の事故にあった方へ

業務中の事故は、会社の指揮命令のもとで仕事をしている最中に、仕事が原因で起きたものであれば労災として補償されます。パート・アルバイトの方も対象で、会社が保険未加入でも、会社が協力してくれなくても、補償を受ける権利は失われません。そして、労災保険の給付だけでは慰謝料はカバーされないため、会社に安全配慮義務違反があるケースでは、別途、会社への損害賠償請求を検討してください。治療を最優先にしつつ、事故状況の記録を残し、判断に迷う場面が出てきたら、労災に詳しい弁護士に早めに相談していただければと思います。

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A

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