家族が労災でお亡くなりになった場合、残された配偶者の方にはさまざまな手続きや年金の受給に関する疑問が生じることがあります。本記事では、労災保険の仕組みや遺族が受け取れる補償内容、申請手続きの流れなどを整理し、配偶者に必要な情報を分かりやすく解説します。

本記事を執筆した弁護士

静岡城南法律事務所

山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。

目次

1. 労災年金と遺族給付の基本概要

まずは労災保険制度における年金の概要と、遺族給付の基本的な仕組みを確認しましょう。

労災保険は、業務中や通勤途中の事故、または職業病などで労働者が負傷したり病気になったりした際に給付が行われる国の制度です。もしこれらの理由で死亡した場合、遺族には遺族補償年金や遺族補償一時金などが支給される可能性があります。公的な年金制度や生命保険などと同時に、労災保険独自の補償が受けられるのが特徴です。

労災の死亡事故は予測が難しく、遺族にとっては急な経済的負担が生じやすい状況となります。こうした負担を軽減するため、労災保険には給付基礎日額に基づいて計算される年金や一時金が整備されています。対象となる親族や受給要件は法律で厳密に定められており、不明点がある場合は労働基準監督署などの専門機関に確認することが大切です。

また、労災保険は事業主が加入する義務を負うものであり、一般的な会社員やパート・アルバイトまで幅広く適用されます。死亡時の給付は多岐にわたるため、残された配偶者はまず制度の概要をしっかりと理解し、自分が受給対象になり得るのかを確認することが重要です。

(1)労災保険の仕組みと年金の種類

労災保険の対象範囲は、正規社員だけでなくパートやアルバイトとして働く人にも及びます。業務上の事故や疾病に関しては、事業主が加入することで包括的に全従業員をカバーする仕組みになっています。

労災保険における年金の種類には、障害補償年金、傷病補償年金、そして遺族補償年金などがあります。障害補償年金は、後遺障害をかかえた場合に支給されるもので、傷病補償年金は治療を継続している間の生活を支える役割があります。

遺族補償年金については、被災労働者が死亡した際にその収入で生計を維持していた配偶者や子などに支給されるのが特徴です。単に死亡時の救済というだけでなく、故人が病気やケガで長期療養中に受け取っていた傷病補償年金や障害補償年金が切り替わる形で支給されるケースもあります。

(2)遺族(補償)年金・遺族(補償)一時金の違い

遺族補償年金は、被災労働者が死亡した際に配偶者や子など遺族に対して継続的に支給される年金です。継続的に収入が補償されるため、残された家族の生活保障として重要な位置づけを持っています。

一方で、遺族補償一時金は遺族補償年金を受け取れる対象者がいない場合や、受給資格者が一定の要件に該当しない場合に支給される制度です。一度だけの支給となるため、年金より総額が少なくなる可能性がありますが、これも遺族の生活支援として活用されます。

どちらが支給されるかは、被災労働者との生計関係や遺族の構成などに左右されます。つまり、配偶者や子が生計維持要件を満たしているか否かで、継続的な年金か一時金かが決まるため、事前に要件を確認することが重要です。

(3)労災年金と厚生年金・遺族年金との関係

労災年金と厚生年金などの公的年金は、同時に受給できるケースがあります。しかし併給調整が必要な場合もあるため、支給額や手続きについては注意が必要です。労災保険が優先する分野と、公的年金が優先する分野を確認することで、どれだけの給付が受けられるのかを正確に把握できます。

特定の事例では、労災と公的年金の両方から同種の給付を同時に受けられない場合もあります。申請の際は、労働基準監督署のみならず年金事務所などにも相談し、書類の重複や手続きの遅れを避けるようにしましょう。

2. 配偶者が受け取れる遺族補償年金

配偶者に支給される遺族補償年金のポイントを見ていきましょう。

遺族補償年金は、生計を維持していた被災労働者の死亡によって、遺族が深刻な収入の減少にさらされることを防ぐための給付です。特に配偶者が最優先の受給対象となることが多く、複数の遺族がいる場合は法律上の優先順位に沿って支給される点が特徴です。

夫婦のどちらかが労災事故や病気で亡くなった場合、経済的基盤が大きく崩れやすくなります。そのため、配偶者は遺族補償年金を正しく受給することで、生活の安定を図ることができるでしょう。具体的な支給額は給付基礎日額や遺族の人数、さらには配偶者の年齢や収入状況などによって変動します。

遺族補償年金を受け取るためには、死亡届の提出や労働基準監督署への申請など、いくつかの手続きを順を追って行う必要があります。不備のない申請を行うためには、必要書類の確認や早めの相談が欠かせません。

(1)遺族補償年金の支給要件と優先順位

遺族補償年金は、被災労働者によって生計を維持されていた親族に対して支給されます。優先順位は、まず配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順に決まります。配偶者がいる場合は基本的に配偶者が第一順位となり、他の遺族には受給権が回らないことが一般的です。

ただし、配偶者以外にも生計を共にしていた子がいる場合には、同時受給という形になることがあります。また、配偶者がいない場合に初めて子やそのほかの親族に受給資格が移ります。
具体的には、以下の順位となります。

① 妻又は60歳以上か一定の障害の状態にある夫

② 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害の状態にある子

③ 60歳以上か一定の障害の状態にある父母

④ 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害の状態にある孫

⑤ 60歳以上か一定の障害の状態にある祖父母

⑥ 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上又は一定の障害の状態にある兄弟姉妹

⑦ 55歳以上60歳未満の夫

⑧ 55歳以上60歳未満の父母

⑨ 55歳以上60歳未満の祖父母

⑩ 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

(2)配偶者が妻の場合と夫の場合の要件の違い

配偶者が妻の場合は、多くのケースで生計維持要件を満たす可能性が高く、年齢制限なども基本的にありません。一方、夫が遺族として請求する際には、妻の収入で生計を成り立たせていたことが必要とされるほか、年齢が一定以上であることなどの要件が課される場合があります。

(3)支給開始時期と支給が打ち切られる場合

遺族補償年金の支給は、被災労働者の死亡日から一定期間後に開始されます。通常は、必要書類を揃えて所轄の労働基準監督署に申請が受理され、審査に通った時点で正式に支給が決定します。

一度受給が開始されると、配偶者が再婚しない限り継続的に受給できるケースが一般的です。しかし、配偶者が別のパートナーと結婚した場合や事実婚状態になった場合には、受給権が消滅し年金が打ち切られることがあるため注意が必要です。

また、子が遺族に含まれる場合は、その子が一定年齢に達したり、結婚したりしたタイミングで受給権がなくなることも考えられます。支給が打ち切られる条件を理解しておくことで、将来的な生活設計に役立てることができるでしょう。

3. 遺族補償一時金・葬祭料(葬祭給付)の内容と受給条件

遺族補償年金を受け取れない場合や、葬儀関連で必要となる支援制度について解説します。

労災保険では、遺族補償年金の受給資格を満たす遺族がいないケースや、特定の要件を満たさない場合でも、一時金や葬祭料の形で給付が受けられる仕組みがあります。これらは家計を支える役割というより、主に死亡後の一時的な費用負担を軽減する目的で設けられています。

特に葬儀の費用は急な出費となるため、遺族が経済的に苦しい状況に追い込まれがちです。葬祭料(葬祭給付)は、こうした負担を少しでも軽減するために重要な制度といえるでしょう。

どの給付を、いつ、どう申請すればよいのか分からない場合は、労働基準監督署や社会保険労務士に相談することをおすすめします。請求手続きには期限があるため、早めの行動が大切です。

(1)遺族補償一時金の概要と注意点

遺族補償一時金は、遺族補償年金を受給できる親族がいない場合や、その資格を満たさない場合に支給される給付です。支給額は給付基礎日額をもとに一括で算定され、受給が認められると一度にまとめて支払われます。

ただし、一時金はあくまで一度きりの支給であり、年金のように継続的に支えられるわけではありません。そのため、配偶者がいる家庭では遺族補償年金を受給できるかどうかを優先的に確認する必要があります。

一時金の申請には通常の死亡診断書や戸籍謄本などの各種書類が必要になり、提出期限に遅れると権利が失われるおそれもあります。要件や手続きの手順を知らずに期限を過ぎてしまうケースを避けるためにも、早めに情報収集を行いましょう。

(2)葬祭料(葬祭給付)の申請手続きと時効

葬祭料(葬祭給付)は、被災労働者の葬儀にかかる費用を補助するための制度です。通常は給付基礎日額の一定日数分を目安とした金額が支給されますが、葬儀費用が想定を上回る場合もあるため、全ての費用をまかなえるわけではありません。

申請手続きには、死亡診断書や領収書などの証明資料を労働基準監督署に提出する必要があります。申請期限が過ぎると時効となり、給付を受け取れなくなることがあるため注意が必要です。

なお、具体的な申請方法や必要書類の詳細は、事案によって異なることがあります。遺族補償年金の申請と同時に進める場合などは、混乱を防ぐために一連の手続きを正確に把握しておくことが大切です。

4. 労災遺族年金の手続きの流れと必要書類

実際に遺族給付を申請する際に必要となるステップと書類を確認しましょう。

労災遺族年金の手続きは、まず被災労働者の死亡事実を労働基準監督署に届け出るところから始まります。その後、遺族給付請求書が受理されるまでに、死亡診断書や戸籍謄本など多くの書類を揃える必要があります。

特に生計維持の事実を証明するためには、住民票の写しや所得証明などが重要となる場合があります。これらがきちんと揃わないと審査に時間がかかったり、不備によって差し戻しになる可能性もあります。

手続きをスムーズに進めるには、故人がかかっていた病院や会社の担当部署などとも連携を取り、必要な資料を早めに入手しておくことがポイントです。

(1)手続きの全体的なステップ

労災遺族年金の申請手続きは、おおまかに「死亡の届出→必要書類の準備→労働基準監督署への提出→審査・決定→支給開始」といった流れを辿ります。最初のステップである死亡届の手続きは速やかに実施しましょう。

受給資格者が複数存在する可能性がある場合は、優先順位を確定するための調査が行われることもあります。戸籍上の状況や実際の生計関係を把握するため、監督署や会社への連絡を密にしておくとトラブルを回避しやすくなります。

提出先は通常、故人が労災保険に加入していた事業所を管轄する労働基準監督署となりますが、転居や勤務先変更があった場合には異なる管轄となる可能性もあるため要注意です。

(2)請求時に用意すべき書類と提出先

遺族補償年金の請求時に必要となる代表的な書類としては、死亡診断書、戸籍謄本、住民票の写し、故人の収入証明、世帯状況を示す書類などが挙げられます。これらを揃えた上で労働基準監督署に提出するのが基本です。

加えて、故人が労働者としてどのような勤務形態だったかや、事故や病気の原因が業務に起因するものであることを確認するための書類が求められる場合もあります。会社の労務担当者や社会保険労務士に相談して、漏れのない準備を心がけましょう。

提出後、監督署の担当者が事実関係を調査し、要件を満たしていると判断されれば給付が決定します。不備や疑問点がある場合には追加書類の提出を求められることもあるので、スムーズに対応できるよう体制を整えておきたいところです。

(3)時効と早期申請の重要性

労災保険の遺族補償年金には請求に関する時効が存在し、通常は死亡の翌日から5年とされています。時効を過ぎると原則的に年金を請求する権利を失ってしまいますので注意が必要です。

また、必要書類の収集や審査には想定以上の時間がかかる場合もあります。提出のタイミングが遅れるほど、受給開始も先延ばしになりがちです。

死亡後は他にも相続手続きや公的年金の諸手続きなどで時間を要するケースがあるため、優先順位をつけて速やかに動くことが大切です。特に生活費が心配な場合は、早期申請がより重要となるでしょう。

5. 支給額の算定方法と配偶者が受け取れる金額の目安

遺族補償年金の支給額を決定する際に考慮されるポイントや算定例を挙げてみます。

遺族補償年金の支給額は、故人の「給付基礎日額」に基づき計算されます。給付基礎日額とは、被災労働者の平均賃金をベースに算定されるもので、死亡時点の賃金実態が反映されるように設計されています。

基本的には、給付基礎日額の60%や75%といった一定の割合を年間給付額として、遺族の人数や配偶者の年齢・障害の有無などによって細かく増減されます。結果として、複数の要素を加味すると受給金額は大きく変わるため、自身の状況を一度確認してみることが大切です。

(1)給付基礎日額と支給額の計算方法

給付基礎日額は、基本的に死亡前の賃金実績をもとに算出されます。通常は直近3カ月間の平均賃金から1日あたりの金額を割り出し、それをベースに年金額の計算が進められます。

例えば、給付基礎日額が1万円の場合、遺族補償年金の年額はおおよそ日額×153~245日分といった目安で試算され、配偶者の条件などを考慮して一定の比率で支給される仕組みです。

支給率の細かい設定は法律で定められていますが、実際には子の数や本人が障害を抱えているかどうかで変動するケースもあります。

(2)配偶者の状況によって変わる支給額

配偶者が何歳なのかや、他に扶養すべき子どもがいるかどうかによって、受給できる金額が変わることがあります。若い配偶者で子が多い場合は、将来長期にわたり生活を支える資金が必要となるため、加算が行われるケースが多いのが特徴です。

反対に、配偶者が高齢で子が独立している場合などは、支給額の加算要素が少なくなることもあります。こうした他家族構成やライフステージの違いを反映できる制度設計となっているのです。

また、配偶者自身が障害を抱えている場合には、追加で加算が認められるケースもあります。個別の条件で細かな差が出るため、早めに情報を集めておくことが肝心です。

6. 遺族補償年金を受け取れないケースと対処法

遺族補償年金を受け取るには一定の要件を満たす必要があります。対象外となる場合の対処法を確認しましょう。

遺族補償年金は、多くの遺族をカバーする制度ではありますが、すべてのケースで受給が認められるわけではありません。例えば、被災労働者との生計関係が認められなかったり、親族関係が証明できない場合などは支給が難しくなることがあります。

他にも、他の公的年金や生命保険金などをすでに受給している場合には、併給調整が行われるケースがあります。すでに高額の保険金を受け取っている場合でも、必ずしも労災年金が受け取れなくなるわけではありませんが、計算の過程で調整幅が出る可能性があるため注意が必要です。

こうした場合でも、遺族補償一時金や葬祭料などは別の仕組みで支給されることがあります。対象外だと思っていても、他の給付を利用できる場合があるため、あきらめずに制度を確認してみましょう。

(1)生計維持要件を満たさない場合

遺族補償年金を受給するうえで最も重要なハードルの一つが、生計維持要件です。被災労働者の収入を主に頼って生活していたかどうかが問われるため、同居や扶養の事実などの明確な証明が必要です。

もし生計維持要件を満たさないと判断された場合、遺族補償年金ではなく、遺族補償一時金などの別の給付が検討されることになります。

同居していなくても、仕送りなどで実質的に生計を維持していた事実が認められれば受給が可能になる場合もあります。自分の事情がどのように扱われるか見通しがつきにくいときは、弁護士などの専門家に相談するのが得策です。

(2)他の年金との調整が必要な場合

遺産相続やその他の年金、保険金との関係で調整が必要になるケースもあります。例えば、遺族厚生年金や国民年金による遺族年金、さらには死亡退職金などが絡むと、労災保険の遺族年金の一部が減額される場合があります。

8. まとめ

ここまでの内容を踏まえ、労災年金受給者が亡くなった場合に配偶者が知っておきたい情報を総括します。

労災保険は業務上の事故や病気で亡くなった場合、配偶者をはじめとする遺族の生活を保護するための重要な制度です。遺族補償年金や遺族補償一時金、葬祭料など、複数の給付内容があるとともに、支給要件も細かく定められています。

特に配偶者は最優先の受給対象となりやすい一方で、夫が遺族になる場合の要件など注意すべき点も多く存在します。手続きには時効や提出期限があるため、死亡届の提出や書類準備を早めに行うことが大切です。

生計維持要件を満たすかどうか、公的年金や他の保険金との調整が必要かどうかなど、ケースごとに対応すべき事項が異なります。ぜひ弁護士等に相談しながら、早めの段階で適切な手続きを進め、遺族の生活を安定させる一助としてください。

本記事を執筆した弁護士

静岡城南法律事務所

山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。

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